ベーシックインカムと生活保護費の減額

先日のエントリ(id:ColdFire:20100125)で生活保護の給付額はBIに比べると高めであり、BI導入は福祉切り下げとなることを論じた。

ここで一つ疑問が生じる。今の生活保護の水準は妥当なのだろうか?
これを判断するには国際比較が手っ取り早い。

購買力平価に換算した1人当たりGDPで見て日本とほぼ同じ所得のイギリス、フランス、ドイツの公的扶助額は、日本より2−3割低い。また、日本より所得の高いアメリカの公的扶助額の4地域単純平均は、日本より約2割低い。


第65回「日本の奇妙な生活保護制度」(2007/11/08)

上記HPに一応データが載っているのだが、二次データである上に1999年と古めのデータのため品質は余りよいとは言えない。しかし(毎度の事ながら)ネット上で手に入る資料であまり良いものが見つからないのでとりあえずこれを採用することとする。

ここで注意を要するには、公的扶助給付額=生活保護費ではない点である。公的扶助の制度の仕組みや対象者,扶助の内容が国毎に異なっており、単純比較には注意を要する。もちろん、当比較も参考程度のものと見てほしい。


これも古めの資料であるが、平成11年度の厚生白書に公的扶助制度の国際比較の記事があるので引用する。

 例えば,アメリカの場合,低所得の高齢者や障害者を対象とする現金給付制度はあるが,我が国の生活保護制度のような包括的な公的扶助制度はない。全国民を対象とした公的扶助制度としては,現物給付のメディケイド(医療扶助)とフードスタンプ(食糧購入に使用できる切符)があるのみである。アメリカ以外の5か国には全国民を対象とした公的扶助制度があるが,イギリスでは就労能力の有無,子どもの有無などに着目していくつかの制度に分かれており,フランスでは高齢であるかどうか,失業しているかどうかによって異なった制度が適用される。これに対し,ドイツ及びスウェーデンは我が国と同様に,全国民を対象とする単一の制度となっている。

 また,扶助の内容も国によって異なり,例えば,フランスには失業に着目した給付がある。イギリスでは,非就業者に対する所得保障制度が二つに分かれている。これは,ブレア政権による就労インセンティブ増加策として,1996(平成8)年から,就労能力がありながら失業している者は求職活動等の要件がある所得関連求職者給付の対象となり,所得補助の対象外となったことによる。連邦国家のドイツでは,生活扶助基準額は州ごとに異なる。

 

平成11年度版 厚生白書


これが今でも同傾向とすると、上記の記事でも指摘されているように、実は日本の生活保護水準は国際的にみて(といってもフランスとドイツ、米国に比べて、と言う程度の意味であるが)2割程度高い可能性がある。
スウェーデンノルウェーデンマーク等の高福祉国と比べると大分低いので、このチョイスは恣意的であることに留意

もちろん、日本より公的扶助の水準が高い国はいくつもあるが、生活保護の捕捉率を向上させた場合は、財政事情により給付水準の減額はおそらく避けられないので、それなりに説得力があるドイツ、フランス程度の給付水準まで下がる可能性は高い
その場合は生活保護の充実(捕捉率90%)に必要な費用も先に算出した値(id:ColdFire:20100125)12.2兆円の2割引きとなり、約10兆円となる。つまりBIは生活保護の12倍の予算を必要とする

またこのときの給付水準をBIと比較すると都会では、単身者(11万円→8万円)では3割減少し、4人世帯(27万円→32万円)では2割程度増加する。
地方では単身者(8.8万円→8万円)で1割減少、4人世帯(22万円→32万円)で5割弱増加することになる。