Traveling Wave Reactor −これからは原子力の時代だ!−
前回は宇宙開発を取り上げたので、今回も当ブログ主が趣味として愛する原子力関連技術の話題を一つ。
日本では完全に無名だが、Traveling Wave Reactor(トラベリング・ウェーブ・リアクター:進行波炉)なる原子炉がある。原理自体はかなり昔からあるのだが、最近これを商用化せんとするベンチャー企業が登場して(一部で)話題になった。
企業の名はTerraPower LLC。Interectual Ventures社の子会社として2006年に設立されたベンチャー企業である。
ではTraveling Wave Reactorとはどんなものであろうか?
TR10: Traveling-Wave Reactor - MIT Technology Reviewより
特徴はいくつかあるが、顕著なものはここやここに記載されているように、
1.劣化ウラン(U238)を燃料とすることが可能なので、従来は核燃料を精製する際に廃棄物として捨てられていた副産物を燃料とできる。廃棄物は世界中に大量に貯蔵されているので燃料には困らない。
2.核分裂性物質(U235)が必要なのは点火時のみ。
3.一旦燃料に点火すれば、燃料供給も、使用済み燃料の除去もなしで50〜100年(理論上は無限に)動き続けることができる。
4.核燃料の精製施設、再処理施設が不要
5.ウラン濃縮が不要なため核兵器の拡散を防げる
あたりだろうか。これにより低コストで安全、そして持続可能な核エネルギーの供給が可能になるのである。
何故”トラベリング・ウエーブ(進行波)”なのかといえば、これはここにある動画を眺めればわかるように、燃料の中を”Breeding(燃料生成)"とそのすぐ後の”Burning(燃焼)”の波がゆっくりと進行していくことによる。
3.24.2010 追記:上記の動画はYoutubeにもアップされていたので貼り付けておく。進行波の様子は50秒目から。
バックボーンとなる物理学は、原理だけであればそう難しいものではない。やっていることは燃料を生成しながら燃焼していくのである。
まず燃料親物質となるウラニウム238が高速中性子を捕らえて不安定なウラニウム239になる。これはすぐに崩壊して同様に不安定なネプチウム239とβ粒子になる。さらにそれが崩壊して核分裂性のプルトニウム239となる。最終的に生成されたプルトニウム239が核分裂し、エネルギーと中性子を生成し、その中性子が再びウラニウム238がウラニウム239になるのに使われるわけだ。
米国には核燃料精製時に使用した劣化ウランが大量に貯蔵されており、Terra Power社によればそれは100兆ドル相当(2007年)の電力になるらしい。また世界人口の80%に対し、米国の一人当りの電気使用量で1000年以上に渡って電力を供給できるだけの劣化ウランが世界にはあるという。
またTerra Power社は100〜300MW級の小型の反応炉と、1000MW級の大型の反応炉を研究中とのこと。
最後に肝心の開発スケジュールであるが、今後10年以内にデモを行い、15年以内の商用化を目指すとのこと。
まだまだ研究中の技術であるが、頑張ってもらいたいものである。当ブログ主は大いに期待している。