ベーシックインカムの持続性と労働へのインセンティブ

BIには本丸の財源以外にもあれこれの問題がある。ここでは以下の2つについて検討しよう。

順番に考察してみよう。

持続性について

BIが仮に実現できたとしていつまで続けられるだろうか?

全員一律に給付するため圧力がかからないように考えている人がいるようだが、もちろんそのように単純なものではない。

例えば不況により財源が確保できなくなってくると、まず裕福な人間(例:現在の首相)に対してまでBIを給付する必要があるのか、という議論が必ず出てくる。この圧力の強弱は財源の状態に大きく依存するが、先のエントリで考察したように、BIには巨額の財源が必要なため、その圧力は強力なものになると考える方が自然だろう。

なお、月々8万円、年96万円の給付額に対して、財源を全額所得税にてまかなう場合は、年収600万円の人間が負担する金額は約300万円。3人家族であれば割が合うが、家族がいない人間には相当な不公平感があるだろう。現在の晩婚化・非婚化社会においてはこれもBIの廃止圧力として作用する。

またこの場合は独身者の可処分所得も100万円以上減少するであろう。

さらにBI導入に伴い新たに多数出現すると思われる「働けるのに働かない」人に対する非難も当然予想される。
そもそも働くことができない老人、子供、病人、あるいは賃金はなくても働いていると認識される子育て中の女性はともかくとして、青壮年の男性が理由もなく働かないことに対しての世間の目は厳しいだろう。これが良いか悪いかは別の問題として、当然BIの廃止圧力として作用することになる。

労働へのインセンティブについて

BIは労働へのインセンティブに負の影響を与える。
なにせ働かなくても食べられるのがBIの目的なのだから、これだけで労働へのインセンティブに強烈な負の影響を及ぼす。
一人当り月8万円の給付とした場合、4人家族なら月32万円である。これだけあれば贅沢はともかく、十分に食べることができる。
もちろんBIは生活のための最低限の給付なので、それ以上の暮らしがしたければ働くことになるわけだが、これはBIを導入していない今現在でも存在するインセンティブである。
つまりBIは労働インセンティブに対して負の影響しか及ぼさない。

おそらく低賃金労働に就く人間を中心にして勤労者は減少し、失業者が増えるだろう(もっとも、賃金以外の待遇さえ良ければそうならない可能性もある)。
ただし、労働供給の低下により賃金は上昇することになるだろう(BIの導入に伴い、最低賃金をなくした場合は賃金が逆に低下するかもしれないが。)

この労働インセンティブの減少が経済に対しどの程度の影響を及ぼすかは実際に試してみないとわからないものの、経済規模の縮小は避けられないだろう。


そしてこれは財源の問題をより深刻化させる。
仮にGDPが20%縮小した場合、BIの国民負担率は120兆/400兆となるから約25%となる。
現在の国民負担率が38%程度であり、これも経済規模の縮小に伴い増えることになるから、例え既存福祉の削減をしたところで国民負担率は合計で7割程度になるだろう。
この場合は欧州の福祉国家を上回ることになる。